文政十二年に刊行された随筆『北窓瑣談』五ノ十四丁から引用。
『狐樹襃(※ほう。やや違う字)談』に『菽園雑記』の次のような話が引用されている。
明の英宗の時代、刑に臨んで三度命令が覆奏したために死を免れた囚人がいた。ある人が囚人に尋ねた。
「そのとき、どのような心持ちだったのか」
囚人が答えた。
「すでに意識は昏然として自分がどこにいるのかもわからなかった。ただ、兵が自分を縛り上げ、妻子親戚が傍らにいるのを屋根の上から見たことを覚えている。しばらくして執行中止の命令が届き、ようやく屋根から下りることができた」(後略)
これは魂が身を離れる例証のひとつともなろう。
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