#076 金春太夫、他家を評すること

有徳院様の御代のこと、金春太夫は名人との世評が高かった。

あるとき、御前へまかり出た際に有徳院様からお尋ねがあった。

「宝生太夫は名人であると世間で評されているようだが、そちはどう思うか」

「他流のことですので、どうにも申し上げ難く存じます」

この答えに御小姓衆から注文が付いた。

「上様はそのような通り一遍のことをお尋ねしているのではない。心に思うことをありのまま申し上げよ」

金春太夫は大層困った様子でしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。

「しからば申し上げます。先日、我らはある大名衆からお召しを受け能をご披露致しましたが、料理を振る舞われ、爪楊枝を使ったときのことでございます。

宝生太夫殿は使用済みの楊枝を楊枝差しへ再度差し入れ、また引きだし、今度は一寸ほど離れたところから投げ入れておりました。宝生太夫殿の芸評については、これでご勘弁くださいませ」

「予もそのように思っておった」

有徳院様はそう仰って笑われたということである。この宝生太夫は能は上手いが素行が悪く、芸風も金春の気に入るものではなかったため、そう申し上げたのだという。

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