#070 願いは一途でなくては成就しないということ

すべて物事は、たとえ神仏に祈るとしても、一途でなくては叶わないのが道理というものだ。わずかな初穂はつほを献じて願いを叶えようなどとするのは愚の骨頂である。ただし、額の多少を論じているのではない。十二銅の初穂も、その懐具合によっては富者の投じた大金に優る。

摂州大阪道頓堀の河原に、乞食同様の風体でまじないごとを為す出家がいた。この出家が江戸へ下ったという噂を脚の不自由なある男が耳にした。

まだ若かった男はこの脚がまじないで治るものであればと決心し、出家を探すため大変な苦労をして江戸表へと下った。当然、貯えのない身であったので、乞食同様にその日その日をしのぐ毎日だった。

あるとき、人だかりの中から「まじないの僧が来た」と叫ぶ声が聞こえた。脚の不自由な男は群衆に分け入り、輪の中にいた出家に声を掛けた。

「お坊様は大阪道頓堀にいたお方でございますか」

「ああ、さよう」

「何年も前からお捜ししておりました。なにとぞ、おまじないで私の両脚を治してくださいますよう」

「加持して差し上げよう。ところで何を布施していただけるのかな」

これを聞いた脚の不自由な男は、顔を真っ赤にして怒った。

「この強突張りの売僧まいすめが。この姿が目に入らないか。俺は通行人に恵みを乞う身分だぞ。布施する物などこれっぽっちもあるものか」

出家は、からからと大声で笑った。

「人に一生の願い事を頼もうとするからには、それなりのものを引替にする必要がある。そこの手桶になにやら汚らしい食べ物が入っておるな。それを布施する気はあるか」

「なるほど。これは汚らわしい食い物だが、今日一日の命を繋ぐ大事な糧だ。これを差し上げよう」

男は手桶を差し出した。

出家は、その食べ物に水を掛け、一粒も残さず腹に収めた。

「よしと。それでは加持するとしようか」

出家はなにやら呪文を唱えた。

「そなたの願いが一心から出たものであれば、まじないの加護は間違いない。さあ、立ってみなさい」

男は何の苦もなく立ち上がり、脚は全快していたという。水野日州が語ってくれた話である。


  • はつほ 賽銭。
  • 12どう 賽銭の最低額。

コメントを残す