#049 大通人のことならびに図

 安永、天明の頃、若者達の間ではもっぱら『通人つうじん』がもてはやされていた。なかでも『大通だいつう』というのは、万事そつが無く、両悪所の事情、その他世の中の流行を的確に把握している者をいう。ひどい場合は放蕩無頼の者を指して『通人』あるいは『大通』と呼ぶことすらある。

思うに、『通』の字は漢学では『達者、達人』を意味し、仏教においても『円通』という使い方がされていることでもわかるように、そのような不良の輩を表すものではない。だが、万事そつが無く、言動すべてが粋であるという意味でそう呼ばれているのだろう。

ある人が通人の絵と解説を持参して見せてくれたので、くだらないことではあるが後の世から見て『昔は馬鹿なことが流行ったのだなあ』と思い出すよすがにでもなればと記す。

安永の頃、奇怪な者が現れた。自称、『通人』である。およそ次の図のような姿をしている(※底本p.71)。たとえて言えば、口は猿、ずるがしこくて、尾は蛇、姿は虎であるというぬえに似ている。

鳴き声は唄のようであり、酒を好み、やっこが真崎田楽を食うよりも簡単に世間をひと飲みにしてしまう。『ちゅう』といえば鼠かと思い、『こう』といえば本堂の屋根を振り仰ぐ。

燕雀いずくんぞ鴻鵠の志を知らん」と気取る。小紋通しの三つ紋は、紺屋に三枚分の仕事をさせるし、裏半襟はどうせ見えないのだから仕立屋の手間損。足下は三枚裏の八幡黒で固め、財布、たばこ入れはどんぶりに納め、肩に長い木綿手拭いを掛けて悠然と街を歩く。

穴知らずの穴話、親和染めの文字知らず、俳諧知らずの俳名、通人の不通というものである。この図のような人間は親類不通の種ともなろう。


  • りょうあくしょ 遊里と芝居。
  • えんつう 滞らず、自在であること。
  • こう カラスの鳴き声。
  • えんじゃく 出典『史記』。ここでは、世間の遅れた連中には通人の粋なスタイルが分かるまい、ほどの意。
  • どんぶり 厚紙を更紗等で包んで作った大きな袋。
  • しんなぞめ 三井親和の書いた篆書などを交えた、漢字を染め抜いたもの。

 

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