#037 不倫には不倫の災いがあること

かなり昔の話であるらしい。谷中あたりのある寺の住職が色町にはまり、なじみの伎女ができた。この女を請け出したはいいが、寺に置いては外聞が悪い。姪と偽って門前で豆腐屋を営む老夫婦に預けることにした。

「ほかに世話をする者もなく、かといって寺に置くわけにも行かないので、どうかひとつ」

老夫婦は快く引き受けた。

ある日、年の頃三十ばかりの男が豆腐屋を訪ねてやって来た。

「私は和尚の甥です。このたび主君の元より参りました。妹が大変お世話になっていると伺っております。御礼申し上げます」

男はささやかな礼金を差し出した。

「このたび妹が婚礼の儀を迎えることと相成りました。準備もありますので今日連れて参ります」

「それはおめでたいことですじゃが、今日は和尚様もお留守によって、また改めてお出でになってはいかがですかのう」

ここで女が口を挟んだ。

「和尚様にお手間をお掛けするには及びません。この方は私のお兄さまに間違いございませんので」

「御心配は無用です。和尚にはよろしくお伝えください」

二人はそそくさと身支度を済ませ、あらためて老夫婦に礼を述べた。

「和尚はあいにく留守でしたが、お帰りになればさぞ喜んでいただけるに違いありません。近日中にまた御礼方々伺います」

こうしてふたりは立ち去った。

和尚が帰ってくると、老夫婦は寺へ赴き、かくかくしかじかと経緯を述べた。和尚は腰を抜かすほど驚き、怒るやら悲しくなるやらで懊悩呻吟したが、もはやどうにもならない。

「姪が大変世話になりましたな。めでたいめでたい」と言うしかなかったという。おかしな話なのでここに記す。

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