#023 御力量のこと

 恐れ多いことではあるが、当代の将軍家のお力は抜群であらせられるとのこと。しかし、普段はまったくそのようなそぶりも見せ給わず、力自慢の程を存じ上げている者もいなかった。

あるとき、品川筋をお成りの際、お馬にて御殿山辺りを通っておられたところ、木の枝に烏が一羽止まっているのを御覧になった。鉄砲を渡すよう仰せられ、馬上にて狙いを付け仰ぐようにお撃ちになったところ、はるか遠くの烏に見事命中し、梢から飛び上がってくるくると廻って落ちた。

上様は片手に鉄砲をお持ちになり、普通の者が杖を回すようにくるくると回し、「どうだ、見たか」と声高に御自賛なさった話をその御側衆をしていた者が語った。

その鉄砲は通常のものよりはるかに重いにも関わらず片手で軽々と取り回される有様に、お力はいったいどれほどのものかと驚き、また、鉄砲術の巧みさも賞賛して余りあるという話をしていると、その場に居合わせた有徳院様、惇信院様御両代のお側に仕えた方が、

「御当家は代々お力に優れておられる。有徳院様が人並み外れた力をお持ちであるのは、まざまざと目の当たりにしたことがあるし、惇信院様は御病気がちであられたが、お力はよほど優れているのだろうと想像させられることがたびたびあった」

と、語って聞かせてくれた。


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