#002 下石道二斎のこと

宝蔵院の末弟子に道二斎という男がいた。磨き上げた槍術の技が大猷院様のお耳に達して御前に召され、別にお召しのあった素槍の達人である浪人と試合をするよう仰せがあった。

御前のことゆえ、高股立ち、かけ声をかけることなどは下品であるからと事前にお側向きから注意があり、双方ともに承知のうえで立ち会いすることとなった。

しかし、いざ勝負が始まると浪人は注意されたとおり禁止事項を守ったのだが、道二斎は高く裾をからげ、遠慮なく大声を上げたため周りの者があわてて止めたがまるで無視して顧みない。結局、道二斎が難なく勝ちを得た。

試合後、なぜ制止に従わなかったのかとのお尋ねに道二斎は平伏して答えた。

「お尋ねはごもっともにございます。随分慎むよう心がけたのですが、勝負に臨んではやはり普段の稽古の成果を十分に出し尽くそうという心が勝って御前であることをも恐れぬようになり、制止の声は耳に入りませんでした。このたびの不届きについて、いかように御仕置きがあっても不服は申しません」

「なるほど。それももっともな話である」

大猷院様はことのほかその気概をお褒めになり、「下石おろしは名人」と御褒美をくださったとのことである

 

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