#001 禅僧の狂歌のこと

芝のあたりに柳屋という金物屋があった。主人は禅を好み、家業の合間にはもっぱら禅の書物を読み、座禅などして過ごしていた。

ある日、柳屋を訪れた旅の僧侶が並べられていた金物をあれこれ見て、ひとつの毛抜きを手に取って尋ねた。

「この毛抜きはちゃんと食うのだろうな?」

柳屋は商品にけちを付けられたと怒ったのか、あるいは禅僧と見て、かねてからたしなんでいた禅問答をふっかけようとしたのか、すかさずこう答えた。

「その毛抜き、本来空(食う)」

すると、さすがに禅僧。ただちに次のような狂歌を詠じた。

空ならばただ紅(くれない)のはな毛抜き柳がみせは見取りなりけり

 (空であれば、ただでもらおう鼻毛抜き。柳屋の店は見てくれだけだ(禅語『柳は緑、花は紅』を踏まえる。「花」と「鼻」、「見取り」と「緑」をかけている)

僧侶はそのまま毛抜きを持ち去ってしまったという。


  • くう 毛抜きが毛などをしっかりはさむこと。(岩波版注釈)

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