#000 序

この『耳袋』は、公務の合間に古老から聞いた物語、あるいは家を訪ねてくる人と雑談をするなかで、心に留まり面白いと思ったこと、また、子弟のためになると思われることを書き記して袋に入れておいたものが積もりに積もって山となったものである。

捨ててしまうのも惜しく、取捨選択しようと何度か硯に向かい筆を執ったものの、公務に忙殺され推敲もままならなかった。この草子には恐れ多くも将軍家の御事をも載せており、世間の人に見せるべきものではないが聞いたままに記した。町の噂などくだらない話もあるが、これも聞いたまま漏らさず記した。

なかには虚偽の話もあるだろうが、語る者は事実だと信じているものばかりであり、見聞きした物事をありのままに記録して我が子弟に残すものである。門外に出すことを堅く禁じるものであれば、文章の拙さも責められるべきではあるまい。

東都 藤原守信自序


  • ふじわらもりのぶ 著者の別号

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