有徳院様の御代、御納戸役を勤めた落合郷八は、小十人頭を仰せつけられ表勤めとなった。
二代目も落合郷八といい、奥勤めを果たし、その後御留守居番を勤めた。私もよくお会いする方である。代々郷八と名乗ることをここに記す。
小十人頭を仰せつけられて間もなく、御成の際、組一同で御前近くに平伏していたところ、上様がかねてから顔を見知っておられた郷八を見かけて、お戯れに声を掛けられた。
「おお、郷八か。その方、組の者の名前と顔はもう覚えたであろうな。ひとりひとり申してみよ」
異動して間もないので部下の名前を覚えていないことは明らかであったが、郷八はあわてることなく畏まって組の者共に名乗らせた。
「お尋ねである。ひとりずつ名前を申し上げよ」
「この横着者め」
上様はお笑いになられ、殊の外ご機嫌であられたという。