ある身分の高い家の娘が、あまり前例のない先へと嫁いだ。公家と武家、あるいは農家と商家など、異なる家の間での婚儀はうまくいった試しがないと世間で言われるように、この夫婦の間にも冷たい風が吹いていた。
娘の母がこれを憂い、かねてから出入りしていた堂上の許を訪ねて相談したところ、次のような歌を一首詠んで渡されたという。
つじ妻もあわせばなどか合わざらんうちは表にまかせおくにぞ
(つじつまなど、妻の側から合わせようと思えば合わせられないはずがない。郷に入っては郷に従えだ)
この歌を娘に与えたところ、その後は夫婦の仲も睦まじく、長く栄えたという。