あるとき、沢庵が但馬守の屋敷を訪れたところ、門番の詰所に一首の歌が掲げられていた。
蒼海魚竜住 山林禽獣家 六十六国 無所入小身
(魚や竜は海に住み、獣たちは山を家とする。だが、この身は日本のどこにも居場所がない)
「なかなか面白い歌だが、末の句は大袈裟だな」
沢庵がひとりつぶやいていると、門番がそれを聞いて言った。
「大袈裟なことなどありません。それがしの歌です」
沢庵は驚いた。
「お主は何者か」
いろいろと話を聞くと、この門番は朝鮮の人であり、本国から日本に亡命してきたのだという。
但馬守がこの話を聞き「身を入るに所無きことなどないものを」と、二百石を与えて侍に取り立てた。今も柳生家にはその子孫が仕えているという。