土浦侯の家臣に内野丈左右衛門という者がいた。いきさつあってその甥が土浦家の跡取りに入ったのだが、若気の至りか、ある日土浦家を出奔してしまった。それを知った丈左右衛門は激怒してあちこち心当たりを訪ね回ったのだが杳として行方が知れない。品川のあたりに行方不明の者の行き先を占う老婆がいると聞いて訪ねたところ、老婆は次のように告げた。
「わしが壇上で修法を執り行い、あれこれと口走るうち甥御の身の上に当てはまり、口振りも似たようになることがあれば、そこで居場所など問いつめるがよろしかろう。しかし、居場所が知れても咎め立ては致さぬよう願いたい」
丈左右衛門はこれを承知して法術を頼んだ。
老婆が壇上でなにやら儀式を行っているのを見守っていると、しきりにぶつぶつ独り言を言う。そのなかに甥ではと思われる口振りがあった。
「なぜ出ていったのだ」
「私めの考え違いにございます。若気の至りでございました」
「人様の家督を継いだというのに、何という無責任な様だ」
「大変申し訳ございません。どうかお許しください」
「一刻も早く帰って参れ。いまどこにいるのだ」
「住所は定まっておりません。江戸よりは南の方です」
これだけ聞き出して老婆に礼を述べて帰り、南の方と定めて探していると深川の外れでばったり行き会わせた。よくよく言い含めて連れ帰り、無事相続を果たすことができた。
後日、甥が次のように話した。
「家出した友人三人で道を行き、並木のある茶屋に立ち寄ったところで、くたびれたためか、しばらくうたた寝をしてしまいました。夢の中で叔父上に会い、こっぴどく叱られてうんうんうなされていたところを連れに起こされたことがありました」
その日時が老婆に行方を尋ねた日時にぴたりと符合する。「不思議なこともあるものだ」と丈左右衛門が語ったという。以上、土浦家中の者の話である。