安永九年のことである。若い武士が従僕二人を連れて浅草あたりを歩いていたところ、ひとりの盲人に行き会った。男は懐から手紙を一通取り出し、丁寧にその武士に近づいて声を掛けた。
「田舎から書状が届いたのですが、目が不自由なため読むことができません。どうか読んでいただけないでしょうか」
従僕は相手にしようとせず追い払おうとしたのだが、武士は彼を哀れんで手紙を受け取り、封を切って読み上げた。その文中に「金を送れとのことであるが、こちらも手持ちがあまりない。とりあえず二百疋を同封する」というくだりがあった。
「ああ、助かった。国元も裕福ではないから、それだけでもありがたい」
男はその金を渡してくれという。若い武士は驚いた。
「手紙には確かに金を同封するとあったが、そんなものは入っていなかった。別便で送ったのではないのか?」
「目が不自由だと思って、金を掠め取るおつもりか」
男はやいのやいのと責めたてた。いろいろとなだめてみたが、一向に納得する様子がない。しかたなく屋敷まで連れて行き、その金額を渡したという。
じつに悪賢い盲人ではあるが、このような詐欺があるので年の若い者は気を付けるべきである。